電脳遊戯 第13話 |
『陛下!!』 セシルの叫び声で目を覚ました瞬間、身構える間もなくロッカーの扉が激しい音を立てて破壊された。人力ではありえない話だが、鉄の扉は耳障りな音を立て、いとも容易く剥ぎ取られていった。 当然、そこにいるのはセブン。 ラウンズだった頃の険しい表情のまま、いびつに歪んだロッカーの扉を手に、男はそこに立っていた。逆光の中浮かび上がる姿は、まさに死神の名にふさわしいほどの威圧感を纏っており、ルルーシュは思わず心臓が握りつぶされるような恐怖を感じた。 スザクに関わるトラウマが一気に心の奥底から吹き出し、思わず身体を萎縮させてしまった自分に舌打ちをする。 「・・・チッ、見つかったか」 ゲームだから絶対に見つからない安全地帯が存在する可能性はあるが、この敵、セブンは優先度の高い場所を探し歩き、それでも見つからない場合はこのように普段確認しない場所も探るよう設定されていたのかもしれない。 あの、俺の嫌いな目で見降ろす姿に胸が痛み、再び鋭い舌打ちをした。 『ルルーシュ、セブンは破壊した扉をいつも後方に捨てる』 C.C.の焦ったような声が聞こえる。 解っているさ、そんな事。 何度見たと思っている。 いつも通り扉は後方へ投げ捨てられ、大きな音を立てた。 その時、視線も投げる方向へ向く。そこが唯一の隙。 ルルーシュは念のため拾っていたカッターを手に、セブンの足元を駆け抜けた。 その際、カッターに渾身の力を込めて、セブンのひざ裏に刺す。 肉に刺さる手ごたえと同時に、セブンが痛みでバランスを崩した。捕えるため伸ばされた手を振り払うと、ルルーシュは部屋を抜け出した。 セブンは予想以上に深く差しこまれたカッターを無表情のまま引きぬくと、痛みなど感じないかのような走りでルルーシュを追った。 『ルルーシュ、2番目の扉が開く、そこへ!』 セブンの行動は決まっていて、まず手前の扉から探る。 だから2番目を選び、すぐに鍵をかける。 『その扉の先、右へ進め』 C.C.の言葉に従い走り出した時、勢いよく扉が蹴り破られた。 「くっ・・・1回で破ったかっ!」 『・・・・っ、行動パターンが変わったな』 手前の扉には目もくれず、ルルーシュのいる扉へ迷わず進み、そして、5回蹴るという動作をやめ、1回で蹴り開けた。これでは時間は稼げない。ルルーシュは後ろを振り向くことなく扉を抜け、右へ走った。 だが、ルルーシュとセブン。 その脚力には差があり、あっという間に追いつかれてしまう。 『ルルーシュ!左、扉1、トラップBだ!』 後数歩で捕まる。 その距離でもルルーシュは後方を確認する素振りは一切見せず、迷うこと無く左にある最初の扉へ入った。 当然、セブンもすぐに入ってくる。 だが、その目の前に突然大きな木槌のような物が現れ、振り子の原理で扉にいるセブンめがけ勢いよく振られ、セブンはその木槌に真正面からぶつかると、その勢いのまま扉の向こうへ飛ばされ、壁に激突した。 これは本来ルルーシュ用に設定されている即死系トラップ。 ルルーシュが寝ている間に辺りを調べた際見つけた物だった。 扉が開くと同時に発動し、扉の前にいる者に強烈な打撃を与える。常人であればそれだけで内臓が損傷し死に至る罠。 ルルーシュはその存在を知っていたため、部屋に入るとすぐに扉の横へ移動し、そこでしゃがみこんでいた。この罠はこれで回避できるのだ。 セブンに当たった木槌は役目を終えるとその姿を消した。 ルルーシュはセブンの様子を気にすることなく、部屋の奥へと足を進めた。 『今までの緩いルールを消し去って、即お前を捕獲するモードにでも入ったようだな』 C.C.が指示を出しながらそう言った。 その頃にはロイドと共にプログラマー4人もここに集まり、セシルとロイドと共には少しでもルルーシュが有利になる様に、マップの一部に干渉し、トラップを仕掛けた。そしてルルーシュは追いついてきたセブンをその罠で撃退する。 最初は上手く行ったのだが、今度のモードではセブンは学習するらしく、一度使った仕掛けは二度と効かなかった。 はあはあと荒い息を吐きながら、ルルーシュはひたすら走り続ける。 既に体力はレッドゲージ。 気力だけで走っている状況だった。 「・・・っ!この!イレギュラーが!!どこまで俺の邪魔をする!」 スザクではないと解っていても、ルルーシュは苛立ちをこめてそう叫んだ。 『ルルーシュ、落ち着け。今この下らないゲームを作った馬鹿どもが、出口を探している』 『陛下、セブンが後方100mに。左の扉へ移動してください』 セシルの指示でルルーシュは左の扉を潜った。 『3つ目の扉の奥にトラップADFを設置した』 3種類を同時起動させれば、流石にセブンの動きも止まるだろう。 「・・・っ、解った」 はあはあと呼吸するのもままならない状態でも、ルルーシュはそう答えた。動きを止めようとする足を叱咤し、ひたすら前へと進む。こんな所で死ぬわけにはいかない。ゼロレクイエムを、戦争の無い世界を作り出すまで俺は! だが、いくら強い意志と気力をふるい起そうと、限界まで酷使された体はそれに応えてはくれなかった。 「ほわぁぁぁ!!」 突然、足に力が入らなくなり、ルルーシュは走った勢いのままガクリと前へ倒れ込んだ。 『ルルーシュ!!』 「・・・っ、わかってる!!」 怒鳴ることで自分を奮い立たせて起き上がろうとしても、体が無理だと訴えているのか力が入らない。体全体で荒い息を吐きながら、ルルーシュはそれでも立ち上がろうとした。身体を支えようとする腕が震え、上半身を起こすとこさえ出来ない。糸の切れた操り人形、あるいは電池の切れた人形のように地面に這いつくばっていた。 カツリ。 『陛下!』 『ルルーシュ様!』 皆の悲痛な叫び声が聞こえる。 ああくそ。そんなに叫ばなくても解っている。 こんな所で、こんな理由でゲームオーバーとはな。 ルルーシュのすぐ後ろには、息一つ切らしていないセブンが立っていた。 「ルルーシュ!起きろ!」 C.C.はそう叫びながらも無理だとわかっていた。ルルーシュにはもう起き上がる体力など残っていない。今まで走っていたことでさえ奇跡に近いのだ。だがこのままでは。 セブンに襲われる。 ルルーシュには話していないが、このプログラムを組む上で、貴族は『襲う内容』に指示を加えていた。 通常の敵はC.C.達の想像通り、暴力による殺害。 武器で、あるいは素手で、牙で、ルルーシュの命を奪う。 殺害された時点でゲームオーバー。 だが、セブンは違う。 捕えたプレイヤーに性的暴行を加えた後、嬲り殺すよう設定されているのだ。 信頼する唯一の騎士に、殺害されるだけではなく、男が男にという状況を作ることで、その矜持も全て粉々に砕くのが目的なのだろう。あるいは麗しの皇帝を、同じく見目のいい騎士に襲わせ、殺害する場面を鑑賞するつもりだったのか。どちらにせよこれらは録画も可能なパソコン上の映像。例え不鮮明でもこれらを記録し、世界中に配信してしまえばルルーシュがここから救い出されたとしても、そのダメージは計り知れない。 いや、嬲り殺すのだからその死まで全て記録し、裏切りの騎士を懐柔してルルーシュを裏切らせたと、シャルルの仇討ちをしたのだとでも発表するつもりだったのか。 どちらにせよ、このままではそれを実際に間に当たりにすることになってしまう。 「おい!そこの4人!!どうにかならないのか!?ルルーシュの体力を回復させるとか!新しいトラップでセブンを何処かに飛ばすとか!そうだ、このセブンを削除しろ!」 ゲームならそういうことは可能だろう! 「何度も試みているんですが、こちらの指示をを受け付けてくれないんです!!」 若者たちも必死な顔で、それでも手を休めることなくどうにかプログラムを崩そうと必死になっていた。だが、万が一を考えたのか、貴族は別のプログラマーに何かしらのプロテクトをかけさせていたらしく、製作者であってもメインプログラムにまで入り込むことが出来なかった。 「何か無いのか?!ここでルルーシュ様が嬲り殺されるのを見ていろというのか!」 ジェレミアもまた半狂乱になりながら、何か無いのか、本当にギアスを解除できないのかと、キャンセラーを発動しているがそれに意味が無い事に誰もが気付いていた。 「陛下!!」 ゆっくりとした動作で獲物を見降ろしていたセブンがルルーシュを拘束し、その皇帝服に手をかけた。ルルーシュは無駄なあがきと解っていても、どうにか抜け出そうとするが、捕まった以上逃げ出すすべなどもう無い。 それまで見下す表情だったセブンがニタリと笑い、思わず皆背筋に悪寒が走った。 ロイドとセシルの努力のかいがあり、今は全ての画面が現実と変わりないほどの鮮明さとなっており、そのセブンとルルーシュの表情がはっきりと見える。今はその鮮明さを恨みたくなるほどだった。 セブンは逃げる手段の無いルルーシュを怯えさせるため、ゆっくりとした動作でその衣服を脱がせ始めた。 |